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東京地方裁判所 平成元年(ヨ)2577号 決定 1991年2月27日

債権者 株式会社アイシーエム 外一名

債務者 株式会社メッツ 外一名

主文

債権者らの申請を却下する。

申請費用は、債権者らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  債務者らは、別紙目録(二)及び(三)記載の各プログラムを製造販売し、又第三者に複製を許諾してはならない。

2  債務者らの別紙目録(二)及び(三)記載の各プログラム及びこれを格納したNEC九八〇一パーソナル・コンピュータ用ハードディスクに対する占有を解いて東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  被保全権利

(一) 債権者株式会社アイシーエム(以下「債権者アイシーエム」という。)は、昭和五六年一二月二二日に設立されたパーソナルコンピュータ関連のハードウエア及びソフトウエアを製造する会社であり、また、債権者株式会社エージーソフト(以下「債権者エージーソフト」という。)は、平成元年四月一日に設立されたパーソナルコンピュータ用のソフトウエアを開発する会社である。

債権者らは、IBFファイルと称するプログラム中、別紙目録(一)記載のプログラム四二個(上段がソースプログラム、下段がその一六進数表示である。以下同プログラム四二個を総称して「IBFファイル」という。なお、「IBF」とは、「Install Batch File」の略称である。)の著作権者である(IBFファイルは、本来、八一個のプログラムからなるものであるが、本申請においては、そのうちの四二個について著作物の主張をするものである。)。

IBFファイルの作成及び販売の経過は、次のとおりである。すなわち、申請外宝蔵顕治、前保純、新枦雅美及び岡哲男は、共同して、NEC九八〇一パーソナル・コンピュータ対応のハードディスク用アプリケーションプログラム管理用ソフトウエアの企画及び開発を行い、昭和六三年一〇月、MENU・EXEファイル、IBFファイル、MENU・AZMファイル、CONFIG・AZMファイルなどから構成されている「EOシステム」というプログラム(以下「EOシステム」又は「債権者プログラム」という。)を完成した。債権者アイシーエムは、昭和六三年一一月から、これをハードディスクに格納し、ユーザーに販売している。

申請外宝蔵顕治は債権者アイシーエムの企画部課長、申請外前保純は同債権者の企画部次長であるところ、両名は、同債権者の発意に基づき、業務として、右プログラムの企画及び開発に従事したものであり、また、申請外新枦雅美は、右両名と共同して右プログラムを完成した後、債権者エージーソフトの設立と同時に同債権者の代表取締役に就任し、申請外岡哲男も、右両名と共同して右プログラムを完成した後、同債権者の開発本部長に就任し、同申請外両名は、同債権者に対し、EOシステムに関するすべての業務上の権利義務を移転した。したがって、債権者らは、EOシステムを構成するIBFファイルについて共同著作権を有する。

(二) IBFファイルの概要

IBFファイルは、前記のとおり、EOシステムを構成するファイルの一部である。EOシステムは、米国マイクロソフト社のMS-DOS上で作動し、市販のアプリケーションプログラム又はフロントプロセッサ(以下「アプリケーションプログラム等」という。)中のファイルをハードディスクへ組み込み、右ファイルをメニュー形式で呼び出したり、管理を行ったりする、いわゆるユーティリティプログラムであり、その主要な特徴は、(1) 市販のアプリケーションプログラム等の中のファイルをハードディスクに組み込むことが簡単にできること、(2) 組み込んだファイルが、メニュー形式で簡単に呼び出せること、(3) 組み込んだファイルの管理が、メニュー形式で簡単に行えることである。

IBFファイルは、四二個のファイルからなるところ、この四二個のファイルは、アプリケーションプログラム用ファイル(一太郎・IBAなど「IBA」の拡張子を有するもの)、フロントプロセッサ用ファイル(VJE-β・IBFなど「IBF」の拡張子を有するもの)からなる(なお、前記八一個のプログラムの中には、サブアプリケーションプログラム用ファイル(エコロジ・IBSなど「IBS」の拡張子を有するもの)が含まれている。)。各ファイルの構造と内容は、次のとおりである。

(1)  ID行

ID行では、「*AZ MENU IBF V1」という記述をし、正しい組込みファイルであるかどうかをチェックする。

(2)  タイトル行

タイトル行では、アプリケーションプログラム等のプログラム名を記述する。この行の内容は、アプリケーションプログラム等のプログラム名としてメニュー中で参照される。全角一〇文字以内、半角では二〇文字以内で記述する。

(3)  デバイス行

デバイス行では、デバイスドライバを指定する。MS-DOSのCONFIG・SYSファイルの「DEVICE=」で始まる行と同じ意味を持つ。なお、ここで指定することができるデバイスドライバは、キャラクタ型のみである。同行の先頭に半角文字の「!」、「?」を追加することにより、組込み対象のアプリケーションプログラム等の中のCONFIG・SYSの内容を参照することが可能である。すなわち、先頭に「!」を付けた場合には、その行の「!」の次からキャリッジリターンの直前までの文字列と同じ文字列で始まるデバイス行が、組込み対象のアプリケーションプログラム等の中のCONFIG・SYSファイルの中に存在すれば、そのパラメータを引用する。同じ文字列で始まるデバイス行が存在しない場合、あるいはCONFIG・SYSが存在しない場合には、その行は、パラメータなしで作成される。先頭に「?」を付けた場合には、「?」の次からキャリッジリターンの直前までの文字列と同じ文字列で始まるデバイス行が、組込み対象のアプリケーションプログラム等の中のCONFIG・SYSファイルの中に存在すれば、そのパラメータを引用する。同じ文字列で始まる行が存在しない場合、あるいはCONFIG・SYSが存在しない場合には、その行は作成されない。なお、「DEVICE=」を記述する際には、必ず「=」の前後に一文字の空白を入れるが、CONFIG・SYSの内容と比較する際には、「=」の前後に空白があってもなくても一致したものとみなされる。

(4)  区切りマーク行1

半角の「*」の記述である。省略することができない。

(5)  コマンド行

MS-DOSの「AUTOEXEC・BAT」に相当するアプリケーションプログラムの起動のための手順を記述した行である。コマンド行は、CONFIG・AZMファイルの中に収められ、アプリケーションプログラムの起動の際に実行される。各行の先頭へ「!」、「?」を追加する場合の、各記号の機能は、デバイス行におけるそれと同様である。フロントプロセッサ用ファイルの場合には、コマンド行を省略する。

(6)  区切りマーク行2

半角の「*」の記述である。省略することができない。

(7)  組込みメッセージ行

組込み作業開始前に、作業者に、組込み対象のアプリケーションプログラム等を格納したフロッピーディスクの挿入を指示する。

(8)  組込み手順行

組込み手順をバッチファイルの形式で記述する。「%1」と「%2」の後には、それぞれ転送元、転送先のドライブ名及びサブディレクトリ名が記入される。フロントエンドプロセッサの辞書の場合だけは、通常、ルートディレクトリになければならないので、「%2」の直後に「¥」マークを付する。

(9)  終了マーク行

半角の「**」の記述である。省略することができない。

(三) 債務者らの本件著作権侵害行為

(1)  債務者シティソフト株式会社は、別紙目録(二)及び(三)記載のプログラム(以下「債務者プログラム」という。)を作成し、その複製権を債務者株式会社メッツに与え、同債務者は、平成元年四月から、債務者プログラムをフロッピーディスクに格納して、「MET′S Filedriver」ないし「MET′S Filedriver 2」の各商品名で販売している。

(2)  債務者プログラムは、機能目的がEOシステムと同じで、その操作性もEOシステムと酷似している。すなわち、債務者プログラムのファイル構成及び構造は、EOシステムのそれとほぼ同一であり、特に、債権者らのIBFファイルは、各種アプリケーションプログラム等について十分な知識を有しなければ作成することのできないものであるが、債務者プログラムを構成するファイルのうちHCAファイル(以下「HCAファイル」という。)は、このIBFファイルとほぼ一対一の対応関係を有する。したがって、債務者シティソフト株式会社は、債権者らの作成したIBFファイルを複製して、HCAファイルを作成したものといわざるをえない。

2  保全の必要性

債権者らは、平成元年五月ころから、債務者らに対し、債権者らのIBFファイルの著作権を侵害している旨通知し、「MET′S Filedriver」及び「MET′S Filedriver 2」の販売の中止を求めてきたが、債務者らは、これを無視し、販売を継続するばかりでなく、かえって、販売を拡大しようとしている。プログラムの開発状況は、ますます急速な進歩を遂げており、この種商品の寿命は短いのであるから、債権者らは、回収不可能な損害を被ることになる。

二  申請の理由に対する債務者らの認否及び主張

1  申請の理由1(一)及び(二)の事実は知らない。同1(三)(1) の事実は認める。同1(三)(2) の事実は否認する。同2は否認する。

2  IBFファイルのプログラム性について

(一) IBFファイルは、要するに、(1) ハードディスクへの組込みの対象として選択するアプリケーションプログラム等のファイル名を記述していること、(2) 組込み作業の指示を簡単な用語で記述していることの二つにとどまる。種々の命令の組合せもなく、論理的思考は全く要求されず、特別の解法の発見も要求されない。作成者の個性などは、そこに反映されず、結果として、作成者の個性によって相違が生じることもない。しかも、IBFファイルに使用されている用語は、簡単な日本語と英単語であり、また、アセンブラ言語、C言語を使用しているわけでもない。このような内容の単純性などからすれば、IBFファイルは、プログラムファイルということはできず、それとは本質的に異なるデータファイルというべきである。

(二) プログラムは、電子計算機に対する指令であり、電子計算機に対するいわば主体的な存在である。ところが、別紙目録(一)上段の記載は、ソースコード(ソースプログラム)などではなく、コンパイル等をすることができないことから明らかなとおり、電子計算機を機能させるものではなく、他のプログラムで使用するデータを記述したものであって、基本的にバッチファイルたるテキストファイルにすぎない。このようなテキストファイルであるIBFファイルは、いかようにしても、主体的に電子計算機を機能させて一定の結果を得ることはできず、プログラムから働きかけられる受動的な存在であるから、データファイルというべきであり、プログラムということはできない。

3  IBFファイルの創作性について

(一) IBFファイルの記述は、極めて簡単で、アプリケーションプログラム等の作成者が命名したプログラム名やファイル名、MS-DOSのコマンドに類似した英単語の羅列にすぎず、表現形式に創作性がない。すなわち、タイトル行では、アプリケーションプログラム等の作成者が命名したプログラム名を記述し、デバイス行では、MS-DOSが採用している日本語フロントプロセッサ組込みのための用語である「DEVICE=」を使用し、コマンド行では、アプリケーションプログラム等の作成者が自動実行バッチファイルに命名したファイル名を記述し、組込み手順行では、MS-DOSのユーザーが一般的に使用している「COPY」、「%1」、「%2」コマンドを使用しているにすぎず、また、「%」、「*」、「?」は、アスキーコード表に掲載されており、かつ、「*」、「?」は、MS-DOSにおいてワイルドカードとして使用されているものであり、更に、ID行、組込みメッセージ行に創作性がないことは論ずるまでもなく、結局、IBFファイルの記述には全体的に創作性が認められない。

(二) ハードディスク組込みプログラムを作成する場合、アプリケーションプログラム等の構成するところに従い、そのプログラム中の必要なファイルを組み込むことになるが、その際、どのファイルを選択するかというファイル選択の基本的なところは、当初からアプリケーションプログラム等に内在し、ユーザーに示されているのであって、誰がやっても同じファイル選択とならざるをえず、組込み対象として重要性を持たないファイルについてのみ、多少の重要でないファイル選択の余地が残されるにすぎない。その場合でも、ファイルの容量、バッチファイルの作成上の都合、ファイル名等を考慮すれば、同程度の知識経験を有するものが選択すれば、ほとんどの場合一致する。したがって、EOシステムについても、アプリケーションプログラム等のユーザーの一人にすぎない債権者らが、特定のファイルを選択しても、その選択のアイデアには創作性はない。

(三) 債権者らの主張する「処理の流れ」や「解法」は、著作権法上保護されないばかりでなく、そのような「処理の流れ」や「解法」に該当するものは、IBFファイル中に存しない。

4  IBFファイルとHCAファイルの類似性について

(一) HCAファイルは、合計五八個のファイルによって構成されているが、そのうち一五個は、IBFファイルに対応するファイルが存在せず、また、一五個は、アプリケーションプログラム等のファイルの選択方法が著しく異なっており、更に、残りの二八個は、誰がやっても同じになるファイル選択方法のものばかりである。また、ハードディスクへの組込みは、難しいものではなく、ユーザーは、MS-DOSのコマンドのうち「COPY」コマンドを理解していれば、本件のような組込みプログラムに頼ることなく、マニュアルを見ながら、自分で必要なファイルを選択し、これをハードディスクに組み込むことができる。

(二) 債権者プログラムは、IBFファイルを一行ずつ読み込み、これをMS-DOSのCOMMAND・COMによって、MS-DOSのバッチファイルのコマンドに修正したうえ、MS-DOSのバッチファイルを実行する仕組みであるのに対し、債務者プログラムは、HCAファイルを読み込んだ後、新たにバッチファイルを作成することなく、本体のプログラムの中で、ファイルの内容を認識して、直接に目的とする処理を実行する仕組みであるから、プログラムの基本的な構造、ファイルの活用の仕方が決定的に異なっている。

(三) IBFファイルのID行に対応する「MET′S HCA Ver1」の記述は、HCAファイルと他のファイルを区別するための識別文字列であって、この文字列なくしてはHCAファイルを活用することができず、「;」記号は、それによってHCAファイルを三つのブロツクに区切るものであって、IBFファイルの区切りマーク「*」とは対応せず、「COPY」記号は、前(二)のとおり、IBFファイルとは処理の仕組みが異なっており、いずれもHCAファイル独特の記述である。また、HCAファイルのタイトル行、デバイス行、コマンド行及び組込み手順行などは、周知かつ普遍的な記述である。したがって、債務者らが、IBFファイルをエディタで修正してHCAファイルを作成したということはありえない。また、EOシステムと債務者プログラムとの容量を比較してみると、EOシステムの全容量は四〇万九五四〇バイト、そのうちIBFファイルの容量は七四一八バイト、債務者プログラムの全容量は八万三七七二バイト、そのうちHCAファイル中債権者らがIBFファイルと類似していると主張している部分の容量は七四一八バイトであり、しかも、債権者らは、本件プログラムたるMENU・EXEファイルをアセンブラ言語で作成しているのに対し、債務者らは、本件プログラムたるMFD・EXEファイルをC言語で作成しているのであるから、債権者らに比べて作成期間が短いのである。

(四) 他社のプログラム作品を見ようとすれば、それを操作して少なくとも画面に顕出させなければならないから、HCAファイル中の「THEGRAPH・HCA」のダンプリストの中に、IBFファイルのディレクトリを示す「IBA」の記号が、いわゆるゴミとして存在しているからといって、債務者らが、IBFファイルをエディタで修正してHCAファイルを作成したということはできない。また、HCAファイル五八個中、IBFファイルの関係のゴミを含むのは一個のみであり、しかも、そのゴミというのは、IBFファイルの内容ではなく、デイレクトリであるから、債務者らが、債務者プログラムをエディタで修正したとはいえない。

三  債務者らの主張に対する債権者らの反論

1  IBFファイルのプログラム性について

(一) プログラムは、指名の組合せとして表現されるものであり、指令の種類、すなわち、プログラム言語の種類を問わないから、高級言語、アセンブラ言語、簡易言語、オペレーション・システムによって機能が規定されている言語及びそれぞれのプログラム内において使用され、当該プログラムによって機能、記述方法が規定される言語のいずれで記述されていても、プログラム性を左右しない。

(二) IBFファイルの機能、処理手順から、これが著作権法上のプログラムの要件を備えていることは明らかでる。他のファイルとの関連があって、実際の処理が、一連のファイルの作動によって機能するプログラムの場合、このうちの一つないし数種のファイルもまた、プログラムたりうる。すなわち、IBFファイルのように、プログラム内の一ファイル中に、特に使用される機能をルーチンにまとめ、このルーチンに移行する記号を設定すれば、この記号は、ルーチンの機能を果たす命令語として、当該プログラム中に又はこれと結合して使用可能となり、このような命令語を複数記述し、組み合わせることによって、一つの処理を行うプログラムもありうるのである。

(三) プログラムには、ベーシック・インプット・アウトプット・システム、オペレーション・システム、アプリケーションプログラム等いろいろなレベルが存在し、例えば、アプリケーションプログラムの場合、オペレーション・システムが規定するコマンドを前提として記述されており、一個のまとまりとして処理した結果をオペレーション・システムに送り、処理を実行したり、各ステップごとにオペレーション・システムの処理に委ねたりしている。同様に、あるプログラムのみに有効なコマンドを設定し、このコマンドの処理をルーチンとして記述しておき、このコマンドを組み合わせて記述し、電子計算機を機能させる手順を形成するプログラムとすることも可能である。IBFファイルにおいては、右のように、EOシステムにおいてのみ有効な処理の機能を有するコマンドを設定し、これを組み合わせたものであって、プログラムであることは明らかである。

2  IBFファイルの創作性について

(一) IBFファイルは、単なるデータファイルではなく、同ファイル中の各行が一連のかたまりとなって意味を持ち、全体としてプログラムの創作性を有するのである。IBFファイルは、各コマンドの記述が簡単なものであるからといって、創作性が否定されるものではない。他の同種ユーティリティプログラムと比較しても、MS-DOSで記述した場合と比較しても、相当の記述の違いがでてくる。換言すれば、プログラム開発者の創作性が発揮されているのである。要するに、ハードディスクへアプリケーションプログラム等の中のファイルを組み込むためのプログラムは、決して、「処理の流れ」や「解法」が一つしかないものではなく、また、「処理の流れ」や「解法」を表すプログラムの表現自体にも多くの違いがある。

(二) IBFファイルの作成過程の一つとして、組込み対象のアプリケーションプログラム等のファイルの選択という過程があるところ、この選択も、IBFファイルの創作性を構成するものである。

3  IBFファイルとHCAファイルの類似性について

(一) IBFファイルとHCAファイルの表現と機能とは、完全に対応する。すなち、ID行は、「*AZ MENU IBF V1」も「MET′S HCA Ver1」も、本件プログラムと対応するプログラムであることを示す識別文字列の記述であり、タイトル行は、どのアプリケーションプログラム等に対応するファイルであるかを示す識別文字列の記述であり、区切りマーク行は、「*」も「;」も区切り記号であり、コマンド行は、いずれもアプリケーションプログラムの起動、実行に関する記述であり、組込みメッセージ行は、いずれも画面指示メッセージの記述であり、組込み手順行は、アプリケーションプログラム等の中の対象ファイルを組み込むための指示や手順の記述であり、終了マーク行は、「**」も「;」も終了記号であり、プログラムの「処理の流れ」、「解法」及びその表現が酷似していることは明らかであって、IBFファイルとHCAファイルの表現と機能が完全な対応関係になる。

(二) HCAファイル中の「THEGRAPH・HCA」において、ダンプリストのゴミの中に、IBFファイルのデイレクトリを示す「IBA」の記号が存在している。また、HCAファイルには、アクセスがない限り生じ得ないようなIBFファイルと同様の誤記や不要な記載、その他不自然な点も存在する。これらは、債務者らが、IBFファイルを本体メモリ上に読み込み、それをエディタなどを使って再編集し、「THEGRAPH・HCA」を作成したことを示すものである。

理由

一  疎甲第一号証、第二号証、第五号証、第一二号証及び第三五号証によれば、債権者アイシーエムは、昭和五六年一二月二二日設立された電子機器(マイクロコンピュータ)及び部品の製造販売等を目的とする会社であり、また、債権者エージーソフトは、平成元年四月一日設立されたコンピュータソフトウエアの開発及び販売等を目的とする会社であること、債権者アイシーエムは、MENU・EXEファイル、IBFファイル、MENU・AZMファイル、CONFIG・AZMファイルなどから構成されている「EOシステム」というプログラムをハードディスクに格納して、これを販売していること、EOシステムは、NEC九八〇一パーソナル・コンピュータ対応の、MS-DOSの環境下で作動するハードディスク自動組込みプログラムであること、IBFファイルは、四二個のファイルからなり、これらのファイルは、アプリケーションプログラム用ファイル二八個(「IBA」の拡張子を有するもの)、フロントプロセッサ用ファイル一四個(「IBF」の拡張子を有するもの)に分類することができること、各IBFファイルの記述は、別紙目録(一)記載のダンプリストのとおりであることが認められる。

二  IBFファイルについて

1  疎甲第五号証、第七号証及び第八号証によれば、IBFファイルは、MENU・EXEファイル、MENU・AZMファイル、CONFIG・AZMファイルなどとともに、NEC九八〇一パーソナル・コンピュータを機能させるEOシステムを構成していること、EOシステムは、市販のアプリケーションプログラム等のファイルをハードディスクへ自動的に組み込み、右ファイルをメニュー形式で呼び出したり、管理を行ったりするプログラムであること、EOシステムの中では、MENU・EXEファイルが、中枢機能を果たしているプログラムで、IBFファイルは、MENU・EXEファイルがアプリケーションプログラム等のファイルをハードディスクに組み込むための指示や情報を記述しているものであることが認められる。

2  次に、疎甲第五号証、第七号証、第八号証、第一一号証、第三六号証及び疎乙第四二号証によれば、IBFファイルの記述の順序、各行の機能及び各行の記述内容は、次のとおりである。

(一)  ID行

ID行は、適正はIBFファイルであることを表示する行であって、必らずIBFファイルの先頭行に記述される。MENU・EXEファイルは、指定されたIBFファイルのID行を先頭から読み込み、同行の記述が半角文字で「*AZ MENU IBF V1」となっていれば正しい記述と判断して次に進み、記述が違っていれば、書式エラーとして処理する。

(二)  タイトル行

タイトル行は、組込みの際、メニューシステムの管理情報の中に転記され、組み込んだファイルのタイトルとなる行であって、必ずIBFファイルの二行目に記述される。通常、アプリケーションプログラム等のプログラム名が用いられる。MENU・EXEファイルは、タイトル行を読み込んだうえ、その先頭一文字を読んで、これが半角文字の「*」でなければ文法エラーとし、これが半角文字の「*」であればこれに続くタイトル行を読み、所定の字数を超えていれば文法エラーとし、所定の字数以内であれば次の手順に進む。

(三)  デバイス行

デバイス行は、デバイスドライバの定義情報を提供する行であって、MS-DOSのシステム起動のためのCONFIG・SYSの「DEVICE=」で始まる行と同じ要領で記述する。ただし、「DEVICE=」を記述する際には、必ず「=」の前後に一文字の空白を入れる。なお、同行の先頭に半角文字の「!」あるいは「?」を追加することにより、組込み対象のアプリケーションプログラム等の中のCONFIG・SYSファイルを参照、引用させることができる。MENU・EXEファイルは、デバイス行を読み込んだうえ、その先頭一文字を読んで、半角文字の「!」あるいは「?」であれば、「!」あるいは「?」の次からキャリッジリターンの直前までの文字列と同じ文字列で始まるデバイス行が、組込み対象のアプリケーションプログラム等のCONFIG・SYSファイル中に存在するかどうかをチェックし、存在すれば、そのパラメータを転記するなどの作業を行う。

(四)  区切りマーク行1

区切りマーク行1は、デバイス行とコマンド行とを分離する役割を果たすものであって、必ず半角文字の「*」一文字を記述する。MENU・EXEファイルは、区切りマーク行1を読み込んで、半角文字の「*」でなければエラー処理に進み、半角文字の「*」であれば次に進む。

(五)  コマンド行

コマンド行は、組込み対象のアプリケーションプログラムの自動実行バッチファイルをCONFIG・AZMファイル中に作成させる行であって、組込み対象のアプリケーションプログラムの自動実行バッチファイルに相当する記号を、MS-DOSのAUTOEXEC・BATの場合と同じ要領で記述する。なお、同行の先頭に半角文字の「!」あるいは「?」を追加することにより、組込み対象のアプリケーションプログラム中のAUTOEXEC・BATファイルを参照、引用させることができる。MENU・EXEファイルは、一行を読み込んだうえ、その先頭一文字を読んで、半角文字の「!」あるいは「?」であれば、「!」あるいは「?」の次からキャリッジリターンの直前までの文字列と同じ文字列で始まるコマンド行か、組込み対象のアプリケーションプログラムのAUTOEXEC・BATファイル中に存在するかどうかをチェックし、存在すれば、そのパラメータを転記するなどの作業を行う。

(六)  区切りマーク行2

区切りマーク行2は、コマンド行の終りを示すものであって、必ず半角文字の「*」一文字を記述する。MENU・EXEファイルは、区切りマーク行2を読み込んで、半角文字の「*」でなければエラー処理に進み、半角文字の「*」であれば次に進む。

(七)  組込みメッセージ行

組込みメッセージ行は、組込み作業開始前に、作業者に、組込み対象のアプリケーションプログラム等を格納したフロッピーディスクの挿入を指示するメッセージを記述したものであって、同行の先頭には、必ず、半角文字の「*」を記述し、二字目から組込み対象のアプリケーションプログラム等を格納したフロッピーディスクの挿入を指示するためのメッセージを記述する。MENU・EXEファイルは、組込みメッセージ行の先頭一文字を読んで、半角文字の「*」でなければ書式エラー処理とし、半角文字の「*」であれば二文字目を読んで、これも半角文字の「*」でなければ残りを読み込み、これを、次の組込み手順を実行する前にメッセージとして操作画面に表示する。

(八)  組込み手順行

組込み手順行は、組込みにおいて、アプリケーションプログラム等から、指定したファイルをハードディスク内に作成したサブディレクトリに転送させる手順を記述した行であって、MS-DOSのCOPYコマンドを用いたバッチファイルの場合と同じ要領で記述する。なお、同行の最初の四文字を「COPY」、「copy」でなく、「Copy」とすることにより、指定されたファイルが、組込み対象のアプリケーションプログラム等の中に存在しなかったとき、エラーとせず次に進ませることができる。MENU・EXEファイルは、組込み手順を一行ずつ読み込んで、最初の四文字が「COPY」あるいは「copy」であれば、指定されたファイルを、転送元のフロッピーディスクからハードディスクに転送し、ファイルがなければ、組込みエラーとし、「Copy」であれば、指定されたファイルが転送元のフロッピーディスクに存在するかどうかチェックし、存在すれば、ハードディスクに転送し、ファイルがなくてもエラーとしない。

(九)  終了マーク行

終了マーク行は、組込み手順の終了を宣言するものであって、必ず半角文字の「**」と記述する。MENU・EXEファイルは、その先頭一文字を読んで、半角文字の「*」であり、更に、二字目も 半角文字の「*」であれば処理を終える。

(二) 以上の各行は、一定の順序を有する書式を構成している。

右認定の事実によれば、EOシステムの中枢機能を司るMENU・EXEファイルは、アプリケーションプログラム等の中のファイルをハードディスクに自動的に組み込む作業において、電子計算機に組込みをさせるための一般的な指令を記述したプログラムであり、他方、IBFファイルは、MENU・EXEファイルを中心とするプログラムを前提として、個々のアプリケーションプログラム等を組み込むに当たっての指示や情報をMENU・EXEファイルに提供するものであり、IBFファイルの右指示や情報によって、MENU・EXEファイルをして、NEC九八〇一パーソナル・コンピュータを機能させ、アプリケーションプログラム等の中のファイルをハードディスクへ自動的に組み込むことができるように仕組まれているものと認めることができる。

三  IBFファイルの創作性について

右二2の認定事実によれば、仮にIBFファイルが著作権法にいうプログラムであるとしても、以下に述べるとおり、IBFファイルは、創作性を有しないものと認められる。

1  前二2の認定事実によれば、IBFファイルの構成は、書式であって、プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系(著作権法一〇条三項一号)に属する文法であると解されるから、IBFファイルの構成自体には著作権法による保護は及ばないものというほかはなく、また、疎甲第八号証によれば、IBFファイルの書式の選択は、MENU・EXEファイルによって規定されていることが認められ、選択の余地はないから、書式の選択によってIBFファイルの表現に創作性が生ずるということも、およそ考えられないことであるといわざるをえない。

2  そこで、次に、IBFファイルの表現内容に着目して、その創作性の有無について検討することとする。

(一)  前二2の認定事実によれば、IBFファイルのID行の表現、区切りマーク行の表現、区切りマーク行をコマンド行の前後に配置するという表現(コマンド行がない場合は、右の前後に配置するという表現はないが、区切りマーク行はその位置に残る。)、終了マーク行の表現、終了マーク行を最終行に配置するという表現並びにID行、タイトル行及び組込みメッセージ行の先頭に「*」を記述するという表現は、いずれもMENU・EXEファイルによって規定されており、その表現に選択の余地はないのであるから、右表現をもってIBFファイルの創作性の根拠とすることはできない。

(二)  また、前二2の認定事実によれば、タイトル行、コマンド行及びデバイス行は、組込み対象のアプリケーションプログラム等によって規定され、その表現に選択の余地はないから、右表現によってIBFファイルの創作性が生じるものとは認められない。なお、組込み対象のアプリケーションプログラム等として何を選択するか、その中からどのファイルを選択するかということは、単なるアイデアに止まるから、その選択によって創作性が生じるということはありえない。

(三)  更に、前二2の認定事実によれば、複数のファイルを組み込む場合、IBFファイルの構成中、組込み手順行の順序は規定されていないが、その余の構成は、その順序がMENU・EXEファイルによって規定されているから、右順序を任意に選択する余地はない。そして、前二2の認定事実によれば、組込み手順行の順序は、選択の余地はあるものの、選択自体は単なるアイデアであり、また、選択したものをどのような順序で記述するかということによっては、表現に相違はでてくるけれども、表現方法はMS-DOSのバッチファイルで用いられている表現方法とほぼ同一であり、しかも、機能的には順序を問わないものであり、更に、疎甲第九号証によれば、組込み手順行の順序は、ほとんど組込み対象のアプリケーションプログラム等のファイルの出現順に従っているのであるから、その表現には創作性があるとは認められない。

(四)  更にまた、前二2の認定事実によれば、組込みメッセージ行は、表現の仕方に選択の余地はあるが、その表現は、通常用いられる表現方法に従って行われるものであって、その選択の幅は極めて小さいから、その表現の仕方によってIBFファイルの創作性が生じるものとも認められない。

(五)  以上によれば、IBFファイルの表現は、大部分がMENU・EXEファイル及び組込み対象のアプリケーションプログラム等いかんによって規定されており、選択の余地がないものであり、また、選択の余地があるものも、選択の幅は極めて小さく、その選択によってその表現に創作性が生じるものとは認められず、更に、IBFファイルの表現を全体的に考察しても、その表現に創作性があるとは認めることはできない。

3(一)  債権者らは、IBFファイルは、単なるデータファイルではなく、同ファイル中の各行が一連のかたまりとなって意味を持ち、全体として創造性を有するのであるから、各コマンドの記述が簡単なものであるからといって、創作性が否定されるものではなく、また、他の同種ユーティリティプログラムと比較しても、MS-DOSで記述した場合と比較しても、相当の違いがでてくるのであって、プログラム開発者の創作性が発揮されている旨主張するが、IBFファイルに創作性を認めえないことは、前説示のとおりであって、右主張のような点を考慮してもなお、その結論を左右するものとは認められず、したがって、債権者らの右主張は、採用することができない。

(二)  また、債権者らは、IBFファイルの作成過程の一つとして、組込み対象のアプリケーションプログラム等のファイルの選択という過程があるところ、その選択も、IBFファイルの創作性を構成するものである旨主張するが、組込み対象のアプリケーションプログラム等のファイルの選択自体は、単なるアイデアに止まり、また、右の選択のうえ行われたIBFファイルの表現に創作性の認めえないことは、前説示のとおりであり、したがって、債権者らの右主張も、採用の限りでない。

四  そうすると、本件申請は、被保全権利についての疎明がないことに帰するから、これを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 宍戸充)

目録(一)<省略>

目録(三)

表題 「MET′S Filedriver 2」

(メッツ ファイルドライバー 2)

種類 ハードディスクユーティリティ用アプリケーションプログラム

製作者 シティソフト株式会社

製作年月日 平成元年九月

販売元 債務者 株式会社メッツ

使用ハードウェア NEC 九八〇一パーソナルコンピュータ(PC-9801E PC-9801F PC-9801M PC-9801VF、PC-9801VM PC-9801VX PC-9801UV PC-9801UX PC-9801LV PC-9801CV PC-9801XL/XL2(ノーマル)PC-9801RA2/RA5 PC-9801RX2/RX4)用ハードディスク

オペレーティングシステム MS-DOS(エムエスドス、米国マイクロソフト社製ディスクオペレーティングシステム)バージョン二・一一及び三・一〇

機能 ハードディスク内に各種アプリケーションプログラムをインストール(組み込み)し、メニュー方式で起動、管理を行うハードディスクユーザーサポートプログラム

ディスク構成 五インチ フロッピーディスク 一部

以下略

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